歯石・プラーク(歯垢)・バイオフィルム

虫歯や歯周病はバイオフィルム感染症
いま、虫歯や歯周病は、「歯にバイオフィルムという状態になった細菌が感染して起こす感染症」という言われ方をしてきています。
このページでは、歯石、プラーク、バイオフィルムについて説明していきます。

歯石 プラークに、唾液中のカルシウムやリン酸が沈着して石灰化したもの。表面に歯石がついていると、凸凹やザラツキのために磨き残しや歯垢・歯石が付きやすくなります。

特に、歯周ポケット(歯と歯肉の溝状の隙間)に入り込んだ歯石の除去は歯周病の治療上大変重要です。

プラーク(歯垢) 英語では:Dental Plaque 。この単語が出来た時代にはまだ「バイオフィルム(生物膜)」の概念がありませんでした。

歯の表面についた白っぽいネバネバした物質で、歯牙細菌苔とも呼ばれ、生きた細菌群とその代謝物が殆どで、食べ物の残りカスやタバコのヤニや茶しぶなどによる歯の表面の汚れとは全く違ったものです。

むし歯(虫歯・ムシ歯)や歯周病の原因となります。

バイオフィルム(生物膜) 日常で見かけるバイオフィルムは、台所やお風呂の排水のネバネバした部分で、細菌が菌体外多糖という物を作って堆積した非常に取りにくい細菌の固まりです。

一般的には、多糖類やその他の有機汚染物質で出来たネバネバした粘性のあるゲルの中に細菌・真菌・藻(ソウ)類等が入り込んで複合体を形成し、何等かの表面に付着した状態のものを、バイオフィルム(生物膜)と総称します。

我々の周りには種々の表面があふれていますから、そこには様々なバイオフィルムが見られます。このバイオフィルムは、固定化微生物の利用(浄水場・工業的触媒利用など)に見られるように人間に有益に働くかと思えば、逆に、虫歯や食品汚染を引き起こす原因にもなります。
このバイオフィルム、その普遍性、重要性から、近年関心が高まりその科学的解明が急速に進んできました。

バイオフィルムという考えが出てきてから、口の中ではプラークがそれに当たると言え、他の分野と区別しやすいような意味も込めて「プラークバイオフィルム」と言うこともあります。
プラーク=バイオフィルムなのですが、プラークはプラーク染め出し液で濃い赤色に染め出された部分だけと思う人が多く、染め出しが弱い部分もバイオフィルムで覆われている事を強調させるために、プラークではなく、バイオフィルムと言う言い方をすることもあります。

細菌類は何らかに付着して群(コロニー)となり、その分泌物でネバネバしたスライム(混合物)を形成し、増殖しながら、バイオフィルムを構築し成長していきます。

バイオフィルムはネバネバしており接着面に強固に付着します。そして、その存在下の細菌・バクテリア等の増殖に良い環境・温床を与え、また、局所的・全身的抗生物質(化膿止め)、抗微生物薬剤に対して強い抵抗性をもたらします。

これは、バイオフィルムは歯磨きでは簡単に落ちず、抗生物質を飲むだけで除菌することや、デンタルリンスでうがいをすることでバイオフィルムを洗い流すことは出来ない事を意味しています。

細菌は酸性状態が好きで、磨き残しをしやすい場所(歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目、治療で詰めた物やかぶせた物の周り、差し歯や義歯のつぎ目や隙間など)、つまり唾液の影響を受けにくい所に増殖するので余計に厄介と言えます。

そのバイオフィルムを取り除くのにスケーリング、およびPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)を行うことが必要で、一見歯石がついていない所にも、スケーラーを当てたり、研磨処置を行うことでバイオフィルムを破壊していくことが、長く歯を守っていく方法だと考えられてきています。

またバイオフィルムは抗微生物・抗薬剤性なので、3DSやトレーによる漂白のような歯にお薬を効かせる際にも、スケーリングやPMTCを行って、バイオフィルムを除去してからお薬を効かせる手順にしてあります。

正しい食生活、自らのブラッシングに加えて、歯科医院での定期的なバイオフィルムの破壊をすることのみが虫歯や歯周病から歯を守ることができると言うことです。



参照:口腔内バイオフィルム デンタルプラーク細菌との戦い 奥田克爾 著